淫蕩と繁栄のお姫様
セイレーン
淫蕩と繁栄の象徴です。その共通点は、生命力でしょうか?
セイレーンは、言わずと知れた人魚のことです。上半身が美女、下半身が魚です。
もっとも、男性の人魚もいるらしいので、美女というのは、多数の思い込みでしょう。たとえば、海神ポセイドーンとアムピトリーテーの子トリトーンは、人の上半身と魚の下半身で描かれるそうです。
ところで、言葉の上で似たようなものに半魚人があります。半分人間で半分魚ですから、セイレーンの外観に合うはずです。しかし、半魚人というと、頭が魚で足があり、人間みたいに歩くものを思い起こしますので、半分人間、半分魚と言っても、上半身が人間のものが人魚なのでしょう。
これは熟語における文字の順番、すなわち文字の頭のほうから魚→人、反対に人→魚となっていることからも正しい理解に思えます。
もっとも、人のような魚と魚のような人とでは、人は後者になってしまいますよね。人魚は『魚』ということに…。
さて、セイレーンは、人魚の図像のほか鳥のような図像のものもあります。女性の上半身に翼と鳥の足です。『ユリシーズとセイレーンたち』(ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス*1,1891,ヴィクトリア国立博物館蔵)でも、有翼のセイレーンが描かれています。
セイレーンが人魚になった原因の一つとして、ラテン語やギリシア語の「羽」と「鱗(鰭)」が同一または類似であったためと指摘されています。
イメージ的にも「水」に関係するそうですが、言葉の混じりも影響が強いのでしょう。言葉の意味(概念)の印象から、近いイメージのものに定着していくとも。魚のほうが、鳥より妖艶な気がしますし…。
ところで、「鳥だと、ハルピュイア(ハーピー)との類似が気になります。アテネ国立考古学博物館のセイレーンの古代(鳥)版の写真は、ハルピュイアそのものですよね?
もちろん、残忍なだけのハルピュイアと妖艶で誘惑をするセイレーンとでは、両者の性格は同じとは言いにくいのですが、どちらも人を滅ぼすことには変わりないようです。
もっとも、ハルピュイアによいイメージがあるとも思えませんが、セイレーンには「繁栄」「知識」といった肯定的イメージも存在します。紋章などに書かれて図像でもセイレーンがあります。セイレーンは「スタバ」の紋章ですし、ワルシャワ市の紋でもあるそうです*2
セイレーンにまつわる淫蕩のイメージにしても、長い髪や髪飾りがそれらしく、そういえば、セイレーンの髪はみな長いようです。長い髪をそのままに水に入ってジャブジャブ、しかも塩水に。赤茶の髪のセーレーンの絵画がありますが、欧米文化の赤毛のイメージはさておき、髪の傷みって思えちゃいます。
長い髪が娼婦のイメージ、淫乱のイメージと結びついているそうです。このイメージは、もちろん男性のものでしょう。
古来よりの職業とされる娼婦。その娼婦に伴うイメージが妖艶な美しさと、美しい歌声、惑わすもの、そして、生臭さなのかもしれません。
その娼婦のイメージとセイレーンのイメージの重なり合いは、長い髪と水、生命と繁栄に見られるのかもしれませんね。
※人魚については、さらに投稿の予定。